Ica

レスと薔薇マリ文

レスしつつ小話いれつつ!ヨハンの素晴らしさを語りつつ!あまりの長さにPCからなら畳んでいないと迷惑すぎる。

はじめまして!!ヨハン受け信者の者です~の方!

>ヨハンが大好きでサイトを探し…うう、私も、私も探してるんですけど、なかなか無いですよねっ!ランキングにまでヨハンの文字が出てるのはこのサイトしかないような気がして夢だったらいいな、と常々思っています!こんなサイトですが、少しでも喜んで頂けたならよかったです…!そんな殴っちゃらめぇ!殴るなら存在感の薄いサイトを作ったこの私を!

ヨハン素敵すぎますよね、可愛いですよね!なんて羨ましい夢を見ているのですか…!ヨハンが出てくるとかわわわ私も見たい風邪をひいたヨハンが看病してもらったり看病したりするヨハンが切実に見たいっうあああああ羨ましいです…!!!リンゴをむいている、ヨハン…リンゴになりたい!!!ドサッ!

風邪ひき秩序の番人

~ヨハン編~

喉のあたりがむずむずする。眉根を寄せてヨハンは今日の仕事は早めに切り上げようと決定した。自己管理は基本だ。これが出来ないものは叱責にすら値するだろう。ヨハンの仕事は最早忙殺の勢いではあるが、そのどれも、ヨハンは無理してこなしているつもりはない。やれることをやって、負担はかけない。それが最善の道であるとしっているからだ。

クルエルフォートの嫌味をかわしつつこの広いエルデンでの数えきれないほどあるトラブルに的確に指示を飛ばして、ヨハンは部屋に帰った。

着替えている途中で、ドアがノックされた。というよりほぼノックと同時に開く。この乱暴な開け方は──

「羅叉、何の用だ」

「風呂が壊れた、なおるのは明日だ」

簡潔に用件だけ告げて、図々しくヨハンの部屋の風呂を借りに来たのだと明言する羅叉に隠さずに溜息をついた。

せめてもの意趣返しに、その腕をつかんでひきとめた。

「私が先に入る」

「………分かった」

ぴくりと羅叉の太い眉がしかめれた気がしたが、気にせずに自分で引きとめておいて何だがつかんだ手を振り払って、脱衣場に向かった。

風呂から出て早々、ヨハンは持ち帰った書類をながめながら羅叉が出てくるのを待っていた。羅叉が帰ったら鍵を閉めなければならない。というか最初から閉めておくべきだった。そうすれば今羅叉を待っていることなどなかったのに。普段は閉めるのに、今日に限って少しぼうっとしていたようだ。まだ引きはじめ、それよりももっと前だと思っていたのだが、存外進行しているのだろうか。

「ヨハン」

「なん──」

振り返って、ヨハンは後悔した。上半身は何も身につけず、タオルで髪をふいている羅叉の姿をばっちり見てしまった。ぽたぽたと黒髪から垂れる雫とか、鍛えられた体とか、

「心臓に悪い」

口に出してしまって、胡乱気な視線を向けられたが気にせずに羅叉のところまで歩いて、タオルをひっつかんだ。

「床にまで垂れているだろうっ」

子供かきみは!と罵りつつ羅叉の髪をぐしゃぐしゃとふく。湯冷めをしたらどうするつもりなのか。ただでさえ風邪がはやっているというのに。

近くでふかれて、羅叉は乾きかけのヨハンの髪からいい匂いがすることに気づいた。ふわふわとしていて、今しかないような気すらする。触りそうになって、あわてて手をおろした。

ガラではない──

かぶりをふって、ヨハンを見直すが、どうしても美味そうにしか見えない。ぐしゃぐしゃとふいて。これは、どうするべきか。

ふきおわったのだろう、ヨハンが手をとめてそれから適当なシャツを渡してきた。いくらなんでもそんな恰好で所内を歩くつもりじゃないだろうな、と言われたがそのつもりだったので何も言わずにきた。

「……」

袖のあたりが少し短い。

「………羅叉、きみは、いつまでいるつもりだ」

その台詞に力がこもっているのは、俺がいつまでもいるからだけではないだろう。

「どこまでも標準的な体型だったか、お前は」

口角をあげて言うと、ヨハンの瞳が剣呑にひそめられる。気にしていたか、もしかして。

「そう怒るな」

なだめようとして、手をのばした。手を、のばした?なだめる?

我ながら馬鹿らしい考えだと思ったが、その必要がある気がしたのだ。どうしても。

胸中を告げたら、ヨハンは言うだろう。気のせいだ、とか不必要だとか余計な御世話だとか。

手首をつかんで、押し倒そうとした。

「………ヨハン」

踏ん張られた。

「きょ、今日はっ」

「ヨハン」

「今日は、駄目だ」

「…ヨハン」

「大人しく帰ってくれないか」

「………初めて知ったが」

「?」

「おれは、抵抗されるとそそるタイプらしい」

「羅──」

絶句したヨハンの足をひっかけてぐるんとベッドに倒す。

ゆざめが何とかとか言っていた気がするが、気にせずにそのままヨハンの首筋に唇を落とした。

まさか次の日、あんなに怒るとは思わなかった。

「…38.8分ね」

琺瑠の落ち着いた声音すら頭に響いて、ヨハンは荒い息のままぜーぜーと琺瑠の隣にいる羅叉をにらみつけた。

どうせならうつってしまえば鬱憤もはれるのだが、羅叉はどういうわけか健康そのものだ。

「ヨハン、その──」

羅叉も流石に少しだけばつが悪そうにしているが、その声を遮って、喉の痛みを無視しつつなんとか声を絞り出す。

「い、から君たちは仕事…に」

「でも」

「寝ていれば治る、それに、一人でいる方が落ち着く」

一人で無いと寝ることもできない、というのは別に嘘ではない。このまま琺瑠に看病なんてされたらそれこそ治るものも治らない。羅叉などは論外だ。

「…分かったわ、辛くなったらすぐよんでね。仕事の方は心配しないで。一日くらいなら何とかなるわ」

「……迷惑をかける」

体調不良などもってのほか、自己管理をしろ、と口をすっぱくしている身としては気まずいこと極まりないが、その原因は自分ではないのだからヨハンにも休む権利くらいはあるだろう。自分自身の失態なら、絶対に仕事に穴をあけるような真似はしない。

出て行くまで元凶をにらみ続けてしまったのは、まあ、不可抗力だろう。

誰もいなくなって、目をとじた。眠くはないが寝るのが一番だ。何も考えないで真っ暗な中で少しずつ、眠気がかまげてきた。静かであるし、寝れる。今なら。そう思ったとたん。

「ふっく長~!風邪ひいたってほんとですか~っ?!」

コンラッド・アシャー隊長補。無駄なまでに明るく嫌味陰険冷血副長とまで言われるヨハンにすら、どこまでも明るい彼だが、もう何というか今すぐ帰ってほしいとヨハンは思った。

「お~本当に風邪ひいてますね~流石に嘘かと思ってました」

「息も荒いし相当熱が高い。今すぐ体をあたためてさしあげましょうか」

「クルエルフォート隊長って、時々怖いですよね…!」

続々とくるは”赤毛の”・エルランディーノ、ハインツ・クルエルフォート、ユキシ・庚だった。まさか三番隊全員くるようなことはないだろうな、と一瞬戦慄きかけたのだがその心配はないようだ。ユキシ・庚がゆっくりとドアを閉めた。

「………なにしにきた」

あえて聞こう。仕事を放り出して、何しに来た。

「副長の看病に決まってるじゃないですかっ!」

明朗に言われても、めまいしかしない。

「何のいやがらせか聞いてもいいだろうか」

「大丈夫ですよ、暫くしたら俺らも仕事に戻ります」

「…それはよかった」

「代わりに別の奴らがきますんで」

「……………………」

ヨハンは瞑目した。瞑目して、ゆっくり今エルランディーノから発せられた言葉をを反芻した。

「……何を言っている?」

「あなたこそ、随分喉に負担掛けて会話してないで黙っていた方がいいですよ。今私たちが滋養にいいものを作りますから」

君も何故止めなかった、クルエルフォート。

文句を言おうと口を開いたが、ぴたりと唇にクルエルフォートの細い人差し指が置かれて、面白そうに笑われた。

「Shiii」

「…………」

怒鳴り散らす体力もない。

とりあえずこいつらは後からこってり絞らなければならないだろう。

「後から怒るとか考えないでくださいよ大将、あんただって風邪ひいてんですから」

「ですよー」

それを言われると弱いのだが、この風邪は…いややはり体調管理に徹しきれなかった自分が悪い。殴ってでも、いや殴った。けってでも、いや蹴った。………とりあえず何とかして、羅叉をふりほどくべきだった。

だがしかし。

「ネギを首に巻くといいって、言われたので」

恥ずかしそうにヨハンの首にネギをまきつけるユキシ・庚を愉快そうに見つめているクルエルフォートだけは、減給でいいだろう。ヨハンは固く決意した。

なwがwいwwww

サクサクいこう!次!

~頑張って看病編~

いくら秩序の番人の副長であるヨハン・サンライズが普段多忙極まりないとはいえ、日がな屯所内に居る訳ではない。会合や視察、自分自身の足で回らなければ分からないことは沢山ある。優秀な部下のおかげでヨハン自身が足を運ばなければならないことは少なくあるが、それでもどうしようもないこともある。

「存外、大したことではかったな。きみは付いてくる必要は無かったな、エルランディーノ」

「まあいいじゃないですか大将。さすがに一人で出歩けない身分であることは自覚してるでしょ」

「外に出れば、私人なのだがな」

そう何人もともをつけるのも面倒なので、エルランディーノをともだって来たのだが、拍子抜けのところではあった。隣のエルランディーノは窮屈な書類仕事に飽きていた様子だったので連れてきたのだがまあいい気分転換にはなったようだ。一番限界そうなエルランディーノを選んだ時の三番隊のうらみがましい視線といったら、なかったが。

「あれ?あれって、…トマトクン…殿じゃないですか?」

一瞬だけ言葉を止めて、ヨハンを見てから敬称をつけたエルランディーノの視線の先に見えるのは、炎模様の鎧に、波打つ波の刃の大剣を背中にかついだ…彼であった。人ごみの中、頭ひとつから二つ分は人より背が高い彼はやけに目立つ。その後ろ姿を見て、ヨハンは目をほそめる。

「大将、挨拶しなくていいんですか?」

「…わざわざしにいく程の仲でもない。こちらに気づいていないのなら、挨拶をする方が無粋というものだ…ろう……?」

尻すぼみになったのは、話題の中心である彼が、ふらふらと倒れこんだからだ。

「え、」

エルランディーノが目を丸くして、けれどその時すでにヨハンの足は動いていた。

思いっきり地面に頭をぶつけて人ごみで垣根ができている。それを押しのけて、中心にいった。彼はなんとか立ち上がったようだが安定していない。また、倒れ──

後ろに倒れてきた彼を、ヨハンはなんとか支えた。一緒になって倒れそうなのを渾身の力で耐えて。

「と、マト殿っ……!!」

重い。とてつもなく重い。ヨハンの腕が震えている。大丈夫なのかこの御仁は。意識があるのか。呼びかけても返事はない。

「う……」

駄目だ、支えているこの腕をはなしたら間違いなく倒れる。倒れてしまう。そうさせるには、

「大将、何似あわないことしてるんですか」

呆れたような顔をしながら、エルランディーノが一緒になって彼を支えてくれた。

「え、るらんでぃーの」

「とりあえず、両脇からかつぎましょーや。御仁、意識が殆どないようですし」

「……ああ。すまない」

倒れてしまう。そう思ったら体がいつの間にか動いてしまっていた。なんてらしくない。これが体内には水銀ですらなく絶対零度の酸化水素が流れているとまで言われているヨハン・サンライズ副長だなんて。本当に、らしくない。

「トマト殿、聞こえます、か?」

恐る恐る問うてみるも「む…」と赤い顔をして荒い息をした彼がうっすらと目を開いた。状況はよく分かっていないようだが、なんとか家を聞き出して歩く。まあほんとは、聞かなくても場所は知っていたのだが。トマト殿は力を借りた恩人であるし、その所在地をしらないということであればもしかしたら何かあったとき困るかもしれない。だから知っているのであって、別に彼の今の家が気になったわけでも何でもない。

「失礼する」

ドアを開けたが誰もいない。それにしてもとんでもなく広い家だ。彼はずっとこんな場所にすんでいたのだろうか。ひとりで。今はもう同居人もずいぶん増えたらしいが、それにしてもこの広さは異常だ。

──いや。誰もいないわけではなかった。

ひょっこりと。毛むくじゃらのでかい生き物が、こちらに向けて顔を出している。

「……大将、何ですかねあれ・・・」

「……今さらだがエルランディーノ。大将というのは少し」

「すいません」

少しばかり動揺したようで思わずぽろりと、ずっと口に出せなかったことまで言ってしまった。それはそうとおれたちの視線を一身にあびている毛むくじゃらは、じっとおれたちの腕の中の彼に視線をやり、それからこちらを見て、口を開いた。

牙が、みえ「きゅー……」

威嚇、されかけたのだと思う。その寸前に彼の口から妙な鳴き声のようなものが漏れて、視線がヨハンと毛むくじゃらに行き来する。そのやり取りだけで毛むくじゃらは何か納得したらしく、ちょいちょいと指でもって誘導してきた。

「…………」

エルランディーノと顔を見合せて、いわれるがままの場所に運んだ。

「あー……それじゃあ、俺は報告だけ先にしにいきますね」

「?それならば私も」

「何言ってんすか、心配なんでしょう。顔に出てますよ。あんたは看病してから来てください。すぐ帰ってきたら、怒りますからね」

「おこ…」

怒るって。そう言われても。

何とも返答しにくい言葉を投げつけられてヨハンが固まっている間に、エルランディーノはさっさと帰ってしまった。何と言うか、困った。これは。

どうすればいいのだろう。そうだ、自分が最近風邪に倒れた時はどうだったか、思い出せ。というか彼も、風邪をひいたりするのか。二十余年たって変わらない容貌にあてられてしまいそうになるが、何と言ってもそうだ、彼は血も流すし笑うし怒るのだ。そりゃあ、風邪だってひくだろう。恐る恐る、額にふれてみた。熱い。とても。倒れてしまうほどなのだから相当だろう。

ええと。

そうだ、声の大きいドーソン・サッティアーは異様なほどこなれた手つきでリンゴをむいて、すってくれた。あれは案外美味しくて不覚にも食べきってしまったほどだった。物凄く見られながらだったので何とも気まずかったが。

「り──」

果たして、何故聞こうと思ったのかも謎だが、おれは声に出して、きいていた。

「りんごは、あるか?」

毛むくじゃらの生き物に。

「きゅー」

指差した先に、台所があるらしい。というかきゅーって。彼が言ったのはこのことか。もしや名前なのだろうか。きゅーとなくからきゅー?安直な。だが彼なら、そのくらいはしそうだと思った。

いくつも置かれている食材の中から赤い実をとって、包丁を手に持つ。

「…………」

食事か。作ったことがないわけではない。不器用な方でもない。ただ、りんごをむくのは初めてなだけだ。

いいや臆するなヨハン・サンライズ。リンゴなどと、皮を剥くだけだ。うまい者は皮を一度も切らずにつなげて切れるらしい。まるごと剥くか、きって剥くか。まずはそこから決めなければならないのではないだろうか。

「きゅー?」

ああなんで来るのだ。できないのか?と言いたげなその視線。出来ないなんて、そんなことはない!

「くっ……!」

気合いをいれて包丁をその身に横にして立てる。皮を上の方からまわしながら剥いて行く。

しゃりしゃりしゃりしゃり。ちょっと皮に身がつきすぎなような気がするがこれくらいなら許容範囲のはずだ。初めてにしては上出来ではないか。皮もつながっている。だが半分あたりで極端に薄くきってしまい、手をとめた。これは、切れてしまうのではないだろうか。せっかく繋げたのに。少しばかりおしいような。いや妙に誇りを持つなヨハン・サンライズ!身分不相応なことをする前に大事なのはむききることだ!任務においてなにより大事なのは結果だ。そう、過程はある程度まで目をつぶることもできる。本当にいいのは、過程も結果も最良であることなのだが、不肖ヨハン・サンライズ。自分に出来ることは弁えているつもりだ。

「ふぅ……」

できた。むけた。一回皮が途切れてしまってからはつなげようとしても上手くいかなかったが何とか綺麗に皮は剥けた。汗がひとすじ垂れてきて、自分はやり遂げたのだと思った。

さあ残るは擂るだけ──「摩り下ろし機はあるかっ」

「きゅ?」

つぶらな瞳が、下がっている。手をふられている。馬鹿な、そんな。不測の事態すぎる。

無いだなんて。

自分の努力は一体何であったのか。

衝撃にうちふるえていると、毛むくじゃらはどうやらヨハンが何をしかったのか気づいたらしく、きゅーきゅーと鳴きはじめた。

「謝罪ならいい…先に聞いておかなかった私が悪…」

とられた。

リンゴを奪ったけむくじゃらは、そのまま一口リンゴを咀嚼した。叫びそうになった。その前にもぐもぐと噛んで、それからふわふわの腕にリンゴを口から出した。

「……………」

汚い。いや、もしかして。

「きゅー!」

すりおろすと言う行為を道具なしでする方法なのか。

「………!」

おれは悩んだ。正直、画期的な方法だと思った。けれど摩り下ろしリンゴ、というには少し違う気もする。柔らかくなったリンゴ、というか。

「う……」

苦しそうな彼の声が聞こえてきて、おれは少しだけ表情を緩めた。

剥いてしまったのだから、もったいない。だからだ、仕方ない。そう言い聞かせて、りんごを毛むくじゃらから奪いかえして歩きだした。

「きゅー」

ヨハンの後ろ姿を見ながら、きゅーは柔らかくなったリンゴを再び口に含んだ。

噛んで、しっかりと咀嚼して、それから彼の唇をにらんだ。いや、もう怖気づくわけにはいかない。救命なのだ。そうだ、そう考えるべきだ。

良く見ると、かつて兄のように慕った男はまつげが長いな、と思った。

端正な顔立ちだ。これならどこに行っても、女が放っておかないだろう。

今は頬が赤らんでいて、瞳もうるんでいる。呼吸が荒い。薄く開かれた唇から、リンゴを分けてあげるべきだ。喉も痛いはずだから。わかっている。

どくん、と心臓が跳ねている。

ぶるぶると震えそうなのは誰だ。おれだ。

緊張している。柄にもなく。

だが、いつまでもこうしている訳にはいかない。

ええい、ままよ。

「──」

その喉に流し込んで、きちんと彼が食べたことを確認して、唇をはなそうとした。

「っ!」

舌が、伸びてきて、ヨハンが離れるのを阻止した。

「っ、っ、っ──」

絡み取られて。何度も、何度も啄まれて。果てには頭を掴まれた。

「ふ…んっ……んんんっ」

涙目になる。酸欠だ。何だ、どうしよう。これはどうすればいい。何をされている。キス。ああそうだキスだ。違う、リンゴをあげたんだ。キスとか、そんなことはない。どうしよう。どうすればいいのか。目をとじてふるふると首をふって脱出しようとするが後頭部をつかまれているので無理だ。何だ、駄目だ。呼吸が整わない。いつもならば10分は止めてられるのに。鍛錬の成果がまったくでてない。いや、出るわけがない。だってこんな、冷静でいられるなんて。そんな。違う、落ち着けヨハン・サンライズ。呼吸、できる。できるはずだ。呼吸するのは口だけではない。当然だ。ああもう、兎に角、

「トマト殿っ!!」

がばりと。渾身の力で離れた。

涙目のまま下を見ると、彼は紅潮させた頬と、うるんだ瞳と、そつなく開いた唇から濡れた舌をだして、こちらを見た。いや、ぼんやりと焦点があっていない。

「もっと………」

「!!!!!!」

もっと?!瞬間的に赤くなったヨハンの耳に飛び込んできたかすれた声。

「林檎………」

「…………」

りんご。アップル。リンゴ、林檎。赤い皮の、時には青い物もある、果汁のしたたるあの果物。ヨハンの手にあるこれのことだ。

「…………………」

恥ずかしさで、死んでしまいそうだった。何だ、その。そういうつもりではなかった。決して。もっと、なんて分かるはずなのに。そんな顔で言うから。

「~~~~~あげますから、大人しくしててくださいっ!」

やけくそになって林檎をかみ砕いた。もぐもぐと噛んで口移しであたえる。また舌が絡んできそうになったが、その瞬間にぺちんと額を叩くと眉根を寄せて哀しそうにこちらを見てくるのでまた与えた。もう絆されない。落ち付いた、もう大丈夫落ち付いたのだおれは。決して、やけになってなどいるものか。

「これで最後ですよ」

「む、……分か…った」

今度は、抵抗しなかった。名残惜しそうだったから、まあいいかな、と思ったのだ。粘膜をかいしてうつってしまうかも知れないが、人に移した方が治りは早いと聞いたことがある。決して風邪をひきたい訳ではないが。

ただ彼の苦しみを取り払えるのならば、この身くらいいくら捧げてもいいとは思った。

「ただいま戻り………」

「……………………」

「………………………………」

「…………!………………!…!!………………………」

「………たいしょう…」

「何故、いる…エルランディーノ……」

「……さ、”先にしにいきますね”って……いったじゃないですか…」

報告が終わったら、戻ってくるという意味だったのだと、主張が聞こえるが、そんなことはどうでもいい。

見られた。それはもうじっくり見られた。見られた瞬間にはなれようとした、咄嗟に。なのに彼がなかなかはなしてくれなかったのだ。

「……・す、すりおろしきが」

摩り下ろし機が、なかったのだ。

だから、仕方無い。仕方ないのだ。仕様がない。だって不可抗力だ。すりおろし機がないなんて、思いもしないじゃないか。硬いりんごを食べる体力なんてなさそうだったし。どうすればいいか全く分からなかった所にあの毛むくじゃらが打開策を打ち出すから、つい。乗ってしまったというか。そういう意図があったわけではなく、むしろ、その。

「……………………………帰るぞ…………」

もう何か、面倒くさくなった。

「あれ、トマトクン…ってうわ!熱があるじゃん!どうしたの!」

「…マリアか……」

「今日でかけるって言ってたけど、大丈夫だったの?」

「うむ…大丈夫だった……と、思う」

「思うって、何!?」

「いや、その、覚えとらんのだ。どうやって帰った来たのか」

「覚えてないって…嘘、じゃあもしかして倒れて、誰か運んできてくれたとか?」

「誰かに…か……むぅ…」

「家まで運んできてくれたってことはきゅー見てる?」

「きゅー、きゅーきゅー」

「…きゅーもよく知らないの?」

「ふむ。誰か分からないのか。…まあいい。本当ならお礼の一つでもいいたいところだが──」

「て、あれ?包丁、今朝僕洗って行ったような気がするんだけどなあ…誰が使ったんだろ…あー!ぼくが食べようと思ってた林檎がない!!」

「林檎……?」

首をひねって、思いだそうとしたがどうにも霞がかっていて思い出せない。ただ一つ、今思い出した。

「甘い」

口内の柔らかな甘さは、りんごのせいだ。

う、受け親子…どっちも受けですからね…この二人は…!はぁはぁ…腕が疲れてきた…エルランディーノ好きです…我らの副長、とか俺らの大将、とか。さりげなく自分たちのもの扱いしてるところがとてもいい…次!

なになに…純真ヨハン!メロンクンより大きくなろうとしていたヨハン!可愛い!だが結局中肉中背…中肉中背っていう四字熟語にこんなに萌えることになるとは思わなった…!よし頑張る!

ヨハンは戦いに行く男たちを、常に見上げていた。

彼等は当然、自分より大きく、たくましく、強かった。連日連夜安酒を煽り、戦いになると苛烈な表情で戦場に向かった。

幼いヨハンは誰もいなくなった宿営地で、一人とても寂しかった。

ただその中でヨハンを抱えて笑ってくれた男がいて、

ヨハンは彼が大好きだったのだ。本当に。

彼に抱えられて見る世界は斬新だった。まったく別の世界だったと言ってもいいだろう。何せ男の長身の、さらに上なのだ。2メーテル近い。いや、それ以上か。とりわけ頭というのはてっぺんにあるのだから、下をみたら目眩を覚えるほどだった。ヨハンは頭がいいとよく言われる。けれどそれがいま何の意味があるだろう。ここから落ちてしまえばヨハンは痛いのだ。そしてここから見える景色はとてもとてもきれいなのだ。その景色を見せてくれているのは、この、男だ。

メロンクン。

名前こそふざけたものだが、その人物はすごかった。何がって、もうすべてだ。先ず第一に──強い。ひたすらに強い。敵など、彼の前にはいないに等しい。彼が剣をふるう度に、驚くべき数の敵があっさりと切り裂かれる。

そして、これは、ヨハンにとっての奇跡なのだが──

彼は優しかった。

とても、とても優しかった。

だからヨハンはこの男の前では同年代の子供には訳が分からないと言われるような難しい言葉など言わない。言えない。一人の子どもになってしまう。

たわいもないことばかり、この口はしゃべってしまう。

けれど彼は、その他愛もないことにしっかりと答えてくる。

嬉しくてうれしくて、ヨハンはいつも思っていたのだ。男のように、メロンクンのようになりたいと。

皆を奮い立たせ、先陣をきり敵を凪ぐ、そんな人間になりたいと。

(現実は非情であったが)

ヨハンに才はなかった。平凡なるその身は目にみえて上達するような才能は持ち合わせていなかった。けれどそれでも、メロンクンはヨハンのあこがれであったのだ。

実父が、よく彼につっかかっていた。

ヨハンはそういうとき、実父の心配をしながらも、彼が実父を言いくるめるようにしてしまうのを見るのが好きだった。やったぁ!してやった!そう叫びそうになってやめるのだ。だって実父が可哀想であるし。

メロンクンはヨハンのヒーローだった。

彼のようになるにはどうすればいいか、愚かなヨハンは大人に聞きまわったのだった。

大人たちは皆少しだけきょとんとして笑った。そして言うのだ。

「無理だよヨハン、アイツには、誰もなれない」

そんなことは分かっているという話だ。

人は誰もその人にはなりえない。自分は自分なのだ。そんなことは言われなくても分かっている。

とぼとぼとヨハンは座り込んで、また優しく後ろから「どうした?」と聞かれて馬鹿正直に答えてしまったのだ。

「どうしたら、メロンどのみたいになれるんですか」

「……どうしたらって……うーむ…そうだな、牛乳はどうだ、ヨハン」

「ぎゅうにゅう」

ヨハンはその飲み物があまり好きではなかった。風味がどうしても苦手なのだ。いつも突き返しては、実父に笑われていた。

「そうだ、背がのびるらしいぞ」

「のびますか?」

「多分な」言いながら、頭をなでられた。暖かい掌がどうしようもなく好きだった。

そう言われたら、飲まないわけにはいかない。

ヨハンは苦手だった牛乳を頑張って飲む様にした。大きくなるのだ。そうして、メロンクンのようになるのだ。だって、なれるはずなのだ。メロンクンがこれを飲めといったのだから──

まあ、結論を言うと、のびなかった。

中肉中背、平平凡凡を極めたヨハン・サンライズは、残念ながらどれだけ努力をしても、それが限界であるかのように身長は変わらなかった。

いくら彼女が女性にしては長身であるとしても、琺瑠と同じくらいの身長というのは、正直気にしないでもない。

けれど伸びなかった。これが現実だ。

ヨハンはひとつ溜息をついて、秩序の番人に囲まれて酒を飲んでいる彼を見た。案外、自分勝手な人なのであんな口上は覚えていないだろう。幼いヨハンは牛乳を飲めば絶対にのびるのだと信じて疑わなかったのだが。

「副長、何かのみますか?」

クルエルフォートが、寄ってきてグラスを差し出した。断るのも面倒なので受け取ろうとして、止まる。

白い。

透明なグラスの中たゆたうその液体の白さと言ったら。

「……………………」

「おや、ミルクは嫌いでしたか?」

別に、嫌いではない。昔は嫌いであったが、毎日毎日飲んでいたものなのだから、飲めないわけではない。

クルエルフォートの嫌な視線を感じて、ヨハンは渋々そのグラスを受け取った。クルエルフォートの体温が残っている。不快だ。

「……」

「私としては、口からこぼしてしまうのをおすすめするのですが…」

「それほどだらしない口をしているつもりはないが」

さて、どうしようか。

彼の前で飲めば、彼は何か言ってくれるだろうか。そうしたら自分は、また覚えていないと言うのだけど。それでも、彼は覚えてくれているだろうか。

目が、あった。

彼が、囲まれながら、けれどこちらをしっかりと見た。

どう、したのだろう。

ドクンと脈打つ心臓は、確かに期待に震えているのだ。

立ち上がって、こちらに向かってくる。ああ、くそ、おれとしたことが。今、きっと、仮面をかぶれていない。

「ヨハン」

「……っ、はい」

クルエルフォートが、つまらなそうな表情をして立ち去ったのが横眼で見えた。

「懐かしいな」

「…そうですね」

「ああ、お前は覚えていないんだったな、すまん」

謝らないでほしい。忘れていると言ったのは、自分のエゴなのだ。

「いいえ。…あなたのことは、…焼きついています」

「──その水」

「は?」

急に話題を変えられて、顔をあげた。トマトクンは窓に腕をかけて外を見ていて、自分は窓に背を向けている。小雨になってきたが、ほんのわずかな間だけだろう。トマトクンは水にぬれるのも構わずに、空を見ている。

「…まだ飲んでいたのか」

手の中の、グラスを見た。

水、ではないのだが。断じて。いや、いい。それはいい。覚えていた。跳ねる。気持ちが、心臓が。どうしようもなく。

「………背を、のばしたかったのです」

あなたのように。あなたを守れるように。

「ヒヒヒ」

唐突に笑われて、ぎょっとして首を回す。笑っている。どうしようもなく笑っている。恥ずかしい。ああ本当に、どうしたものか。

「な、何です」

「いやな、そうか、覚えてないといっても、そういうところは残ってるんだな」

ヨハンは頭がいいな。そう言われていたのを聞いていただろうに、すっかり忘れているというヨハンの言葉を信じているのだから、なんとなく、もどかしかった。

「ええ、結局、この通りなのですが」

「不便はしないだろう。そのぐらいでも」

その通りだ。けれど、ヨハンの夢だったのだ。メロンクンと同じくらいになりたい。小さいころでさえ途方もなく大きく見えた彼は、今こうして並んでもとても大きかった。

「ええ、でも、……貴方は、大きいですね」

相変わらず。

口の筋肉がゆるんでしまった。隠すこともできない。まあいいかと思ったその時、頭の上に何かがのった。

な──

あんぐりと口を開けそうになった。

ぽふぽふと、ヨハンの栗色の髪の上にのっているのは、トマトクンの手だ。

撫でられている。

目を剥いた。固まって、暫しののちに、見上げた。

柔らかい瞳が、ほそまっていた。

「俺は、このぐらいが好きだぞ」

「あ」

貴方の、「好き」だなんて。

でも、その言葉一つだけで、伸びなかった自分を許してしまいそうになった。

その掌が、かつてと変わらない暖かさだったから、ヨハンはまたどうしよもなくなって、絆されるのだ。本当に、これは才能と言ってもいいだろう。

「…ありがとうございます」

やっと出たその言葉に、彼はまた笑ったのだった。

後日、ヨハン・サンライズがものすごいデレデレだったという素敵な噂が流れるに違いない。因みに3巻あたり。

ふぅ…いやそれにしても、なんて長さに!

だって、潔くリクエストされたので、私もつい、調子に乗って!やべぇ、妄想って、これのどこまでを書いてほしいんだろう!純真ヨハンか!風邪ひきヨハン?!看病ヨハン?!ええいこうなったら、全部かいてしまえ!という感じで。いやその、だって大好きだなんて恐れ多いこんなもので宜しければ!!私もヨハンも大好きだなんて、そんな!私なんてただのヨハンに罵られたい気持ち悪いアーニャっぽいやつです!ほんとに気持ち悪い!うああすみません、本当に、嬉しくてつい、こんな。毎日通っていただけるなんて恐れ多いです!熱が冷めたらすっぱり通わなくなるのをオススメします!いやもう本当に、コメントありがとうございました!

前回のありえない長さのヨハンへの愛語りを以外にも読んでくださった方が結構いてくださるようで!え、嘘!あれを?!私でも読みなおすのは気力がいるのにあれ!ブログ拍手も結構おしてくださるかたがいるのですが、まさか読み切ったのですか!なんて兵な!アキさんも読み切ったとか、大丈夫ですか目に負担しかかけてないですよね!うあああすみません皆さん!

全部読ませていただきました。~の方

>あんなものを、全部読んでくださったなんて本当ああああありがとうございます!そして大変申し訳ないです!あ、あの長さを、あの文字量を!共感とか、していただけるなんてありがとうございます…!うああこれからもがんばりますね!ありがとうございました!^▽^