Ica

荊ヨハ

かっこいい緊迫感のあるどろどろなシリアス愛憎荊ヨハが見たいのだけど、書きたいのだけど、難しい。困った。私の場合、ちょっと気をぬくと別の方向にいってしまう。泣きたい。

この出会いは、必然だっただろう。ヨハンにはわかっていた。ヨハンにとっては必然だった。

ヨハンが、ヨハン・サンライズがデニス・サンライズの弔いをするうえで、必然だったのだ。

避けては通れぬ道というものがある。たとえばSIXの抹殺。これをしなければ、自分たちは前に進めぬ、そういう類のものだ。

おれたち、いやおれから養父を奪ったやつらを、決して許すことはない。

「俺たちが、悪と?」

男は少しだけ、呆れているようであった。悪即斬。何て利己的な主義か。男はかつて手を結んでいたクソッタレなSmCも嫌いであったが、それらはもっと嫌いだった。悪だとか正義だとか、吐き気がする、というものだ。それが単なる客観的判断という名の主観的発言であるならば、敵対してもいいから殺そうかと思った。

けれど。

「ああ、私たちから、デニス・サンライズを奪った者に加担し、私たちの元メンバーであったものを手土産にSmCに組みするようなものを悪と呼ばずに何と呼べばいい?」

「……」

くだらない。男たちも生きるのに当然の権利を持っている。その筈だ。これらの言い分をかりるなら、だが。男がもともと居た場所ではそんな権利を持っているのは、上に立つ者だけだった。

驚異的な戦闘力をもつ、飛燕はここにはいない。またどこかに遊びに行っているのだろう。今更呼びに行ったところで何にもならない。男、荊王は眼鏡の、どこまでも平凡な顔立ちをした男の剣劇をふせいだ。

成程その立ち筋は恐ろしく美しい。何回、何千回、いや何万回も型を練習してきた人間のそれだ。一瞬頭をよぎったのはここにはいない飛燕だ。あの小さな体でひたすらに鍛錬し自分を痛めつけ、あの境地に達した。この男も、そうなのだろう。平々凡々たるその身をいためつけて虐め抜いて、何度も何度も血反吐をはいて限界を塗り替えてきたのだ。ああ、思い出した。平凡なる知将、ヨハン・サンライズ。副長、だったか。

「くだらないな、ヨハン・サンライズ

言葉に出した。そう、くだらないのだ。そういったからといって、ヨハンの表情が変わるわけではなかった。成程、“鉄面皮”とか血が通っていない、とか言われるわけだ。荊王自身もそこまで表情豊かなほうではないが、この男のように絶対に触られたくない部分までずかずかと入って罵られても無表情を保ってられる自信はなかった。否、荊王の踏み込みは、まだ浅いのだ。

「…デニス・サンライズを奪ったのは俺たちではない」

「加担はしている。それだけで十分だ」

冷静に、言い放たれた。

その瞳が、少しだけすぼまっただけで。

この名前を出しても表情は変わらないなんて。本当に血が通っていないのかもしれない。

「わたしたちから」

ただ、剣を持つ手に少しだけ力が入っている。

「私から…」

それ以上、彼は何も言わなかった。

それだけで、伝わった。

嗚呼、なんだ。

──怒り狂っている。

ヨハンの感情を覗けたことがやけに気に障って荊王は口の端をつりあげそうになった。

何が感情がない、だ。

見る場所を見れば、ヨハンの動揺は、怒りはそこかしこに出ている。気づけないほど微々たるものなだけで。

荊王は、悪だと勝手な歴史的事実で決められるのが嫌いなのだ。

こんな一個人の感情をむき出しにされて、どうして自分たちを悪だというその口を閉ざすことができるだろうか。

否、無理だ。

悪なのだ。おれたちは。

この男にとって、それだけは変わりない真実なのだ。

認めよう。俺は、悪だ。

そうして悪であり続けるなら、この男は自分の命を狙い続けるのだろう。

「──悪いが」

剣を手の甲のガントレットで弾いて、ふところに入り込んで襟をつかみ上げた。

「…興味がわいた」

美しい歯だ、と唸らざるを得なかった。こんなにも整然とした歯の持ち主がまだこのエルデンにいたなんて、予想外だった。

舐めあげた瞬間の見開かれた瞳が、更に気に入った。

けれどもう逢うことはないと思っていたが、そう思っていたのは俺だけだった。

女の悲鳴が路地裏から聞こえて、この龍州連合のシマで好き勝手させるのは沽券に関わるので足を進めた。

段々とか細くなっていく女の悲鳴に歩みを早めることもしないまま/何故なら、女がどうなろうと知ったことではないからだ。

そうして見据えた路地裏で、血まみれの彼が立っていた。

このくらくて狭い路地裏では浴びざるを得なかったのだろう。返り血を。

「大丈──」

震えて目を見開いたままの、はだけた格好の女に無表情のまま声をかけようとして、女が恐怖の眼差しで彼を見た。

流石に、あれだけ血まみれならば怯えられても仕方ないが、ヨハン・サンライズに助けてもらっておいて怯えるのは甚だしいな、と思った。別に普段ならば怯えるのも勝手であると吐き捨てるように考えるのに。何か声を出そうとした。それは女への侮蔑の言葉であったのか、怯えられたヨハンへの言葉であったのか。発する前に俺に背を向けたままのヨハンの視線がこちらを一瞬だけ、一瞬だけ向いて止めたから今ではもうわからない。

だってその瞳があまりにも。

「…怪我はないようだな。悪は斬り、すなわち根絶やしにして義を果たすのが私たちであるが、いつでもそうやすやすと、都合良くその身を守れることはないだろう。この国は腐り果てた蛆虫のたかるいいよりしろだからだ。故にきみはきみを守るために、最善を尽くせ。悪を憎め、義をなせ。それが出来ぬなら、死ぬだけだ」

返事もできない女にひとつ溜息もつかずに、振り向いたヨハンと目があった。

「………」

なんて。

なんて強い瞳か。目が離せない。はなそうとも思わない。真っすぐ、その視線はこちらを向いている。手に持っている血まみれの名声高き月明をひきずって、一歩ずつこちらに向かってくる。

「──殺したいのか」

俺を、そんなにも。

「ああ、勿論だ」

ヨハンの表情が、その瞳が爛々と輝いて、殺気だけが向けられる。

ほしい、と急激にその思いがわきあがってきて、色眼鏡を押し上げた。

「ここは俺のシマだ。番人がこんな場所に何故いる?」

しかも、たった一人で。

「貴様に会いに来たからだ」

何を言っている、というような声音に声を失った。

それでも咄嗟に後ろに下がって、先程まで俺がいた場所に剣がつきたてられ、ヨハン・サンライズは忌々しげにこちらを見ていた。

「先日の礼を、返しに来ただけだ」

「──…」

最後に、薄く開いた口の中の歯をなめて形を確認したのがまずかったのだろうか。

しかし、そんなことの為に?たった一人で?

「何を考えている、いくぞ」

こんな場所で血まみれになって。共もつけずに?番人の単独行動など殆どない。それぞれ小隊をなして巡回するのが普通で、それ故に副長もあろうものがこんな場所に一人でいるなどと──

まさか。

「囮か」

また、彼の動きがとまった。これは図星なのだろうか、それとも?

「…………きみは頭がいいが、馬鹿だな」

肩が少しだけ震えている。

「大義がなければわれらは剣をふるえない。残念ながらきみたちは闇市にとって悪ではないから、まだ手は出せない」

では何故ここに来たのか。

「…たまには言葉通り受け取ってほしいものだ。もう一度言おうか。──私はきみに/きみを、会いに/殺しに来たんだ」

──わかってしまった。

この男は、俺の心をつかんで、わしづかんで、握って、とらえて、離してくれない。

どうしようもなく、気づいてしまった。

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因みに没にしたの

俺たちの決着はつかない。毎度のことだ。足を使い物にならなくすれば、腕をもっていかれる。腹につきたてれば、背をきられる。不毛だ。

「私はきみを殺す」

その言葉がどうしようもなく臓腑の裏のあたりに響いて仕方ない。

俺が、

俺が勝ったら…この男を殺すだろうか。

あの瞳を失いたくない。

「俺は…」

いつからか言葉に迷うようになった。ヨハンはそれに律儀に反応して、「何だ、はっきり言いたまえ」と命令してくる。

とはいっても、どう言えばいいのかわからない。

「何だ、別に報復などと心配する必要はない。私は何より人望がないからな、死んでも復讐などといきり立つものは一人もおらん。はっきりしないか、生娘であるまいし」

この男が人望がないのは、そういう役を演じているからだ。

そう言おうとして、それからふと気付いた。

生娘じゃあるまいし。

「…それもそうか」

不意をつくように回し蹴りをして、けれど防がれる。ただし意表をつかれたようだ。二度、三度。打つたびにヨハンの身体が後退していく。壁にぶつかった瞬間に、顔の横に手をついてあの日のように襟をつかみ上げた。

「俺が勝ったら」

お前を、屈伏させたら。

「抱くことにしよう」

「………………………」

再びあいうちの瞬間が訪れて、最後に「誰を」というひきつった声が聞こえた気がした。

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なんか駄目だ、没

「…報告、二十五番無名隊」

「はっ、依然捜索を続けさせていますが見つかっておりません。どうやら潜伏したもようです」

逃げられた。結果としてはこれにつきる。まあ少々、急激な事態だったので今回はこれ以上深追いする必要はないだろう。月明の柄を無意識に撫でて、クルエルフォートをさがらせる。

襟元がくしゃくしゃになっているのを直して、手を止める。

「………」

掠めるように、

(興味がわいた)

歯を、舐められた。

眉根をよせて、少し気分を変えようと窓をあけようと手にかけた。

「──」

「偶然だな」

信じられない。

外から勝手にあいた窓の桟に、色眼鏡をかけた男が一人。

しかも、ぬけぬけと、偶然を装うなどと無理にもほどがある。

「ここは…銀の砦内だ」

「知っている」

「何故いる?殺されたいのか」

「心配か」

一瞬息がつまった。何を言ってやがるこの男、と思ったがひきつった表情のまま──

窓をしめた。

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荊王がHENTAIすぎる、ヨハンのこと好きすぎる、没

もっとこう、好きになっちゃうまでの脈絡も欲しいというか!ちきしょう!無理!レスは明日しますね!誰か荊ヨハかいて!ぷろっとたてて!