Ica

修羅の刻

修羅の刻のアニメの続きをほくほく見てきました。

引き延ばしが凄いぜ!とは思うけどそれより凄かったのは24話の演出でした。

何というイケメン出海さん…

前髪ののびっぷりがイケメン…

あと、時をかける修羅(笑)を本気で書いてみました。プロットまでめもるなんて伊藤は本気のようです…!

出来れば、完結させちゃってから載せたいのでとりあえず第一話だけ。

つづきから、時をかける修羅(笑)です。

タイトル大募集中www

笑ったまま死んだ雷電を華奢ともいえる葉月が背負い、そうして雷電の女房に手渡した。

すっきりしたような、何かを失ってしまったような、やけに綺麗な顔の葉月がそのまま笑って兵衛に向き直った。

「親父殿にあいさつにでも行くか」

「親父殿…?」

「お前にとっての、爺じゃ。怠け者だからな…おまけに罰あたりだ」

道中、葉月は親父殿がいかに怠け者で甲斐性がなくて罰あたりでウソツキなのかを語った。その声音には確かに文句も恨みもこもっているのだろうが、それより何より懐かしむような葉月の表情の方が印象深かった。

あの雷電とも闘ったともいう。

「強いのか」

「馬鹿を言え、お前の方が強い」

道端に生えているような雑草にも等しい花を適当に摘んで、供えにするのだというから、そんなもので良いかと尋ねるとあの怠けものにはこれですら勿体ない…何て。

一応は墓の形に削られた適当な石に花をなげつけて、葉月が兵衛や、雷電のことを話す。

死者は死者だ。どこにもいない。この世のどこにもいない。そんなことは百も承知だが、雷電が逝った。親子三代にわたって陸奥に関わった男が天に帰ったのだ。

「仲良くしているか…といっても、雷電も親父殿なんかと仲良くしたくないだろうがな」

兵衛には入れない世界が、そこにはある。

「親父殿が病などにぽっくりかかるから雷電が嘆いておったぞ、馬鹿」

病にかかる陸奥などと、珍しい。鍛え上げられた肉体と精神力をもつ陸奥は異様に病気に対する免疫力が高い。

「そんなに、怠け者か」

「ああ。母者を医者に見せるのも遅れて死なせてしまうほどの怠け者じゃ」

それは成程、確かに稀代の怠け者かもしれない。

なんとなく、兵衛の中に人物がぼんやり見えてくる。怠け者でいつものんびりしていて、小さな葉月を連れて渡り歩く。

陸奥、左近か。

母しか知らぬ自分に、どうしてか胸をざわつかせる名前だった。

「なぁ、母者──」

あり得ないことだけど、俺はその人にあったことがあるような、

そう継ごうとして視線をまわして、見開いた。

「母者?」

さっきまでいたのに、その石に花を添えていたのに。

そもそも、石がさっきよりずっと、妙に新しくなっている。墓のようにかろうじて見えていた形が丸みを帯びたただの大岩になっていて。

──言い知れぬほどの違和感。

風が違う。空気が違う。

ガサリ。葉と葉が重なりあってこすりあった音がして、茂みから小さな子供が出てきた。

「あ」

黒髪に整った長さの前髪。けれどその顔立ちにはやけに見覚えがある。これは──

「こら、待ちなさい」

子供を追うように女が出てきた。見るからに…白い。細くて、白くて、病的という言葉が頭をよぎった。黒髪が白い肌にはえて、はえすぎていて怖いくらいだった。けれど瞳はとても優しそうで、母性をひしひしと感じさせる。

「やだ」

子供が兵衛の後ろに回り込んで、足を掴んだ。母親なのだろう女は困ったように眉をさげて、でも強さを感じさせる笑みを浮かべた。

「お母さん、泣いちゃうわよ?」

「う」

着物の裾を目じりにつけて、明らかに嘘だと分かるようにめそめろとなく真似をする母に、子供は騙されて戸惑う。

「ははうえ、その」

「駄目、悲しくて涙が止まらないの」

瞬間子供は兵衛の股の間を無理やり開いて母親のもとまで小走りで近寄った。

「なんて」

「あっだましたなっ!」

母親にひょいと掲げられて、子供が足をばたつかせた。その動きは、武道などを習っている風ではとてもない。母親の着物の裾から覗いた手首は驚くほど細かった。

「おい、いたか」

「あ、あなた」

「とうさま」

全くあの茂みはどこにつながっているのやら。

今度現れたのは、男だ。

けれど今までと決定的に異なっているのは、その服装が修羅に伝わるものだということだった。

兵衛は混乱して男をみやる。男もまた、兵衛を見た。

まさか、と息をのんだ。まさかこの男は。

「お前、あれは誰だ?」

こちらが何か言う前に、男がとろんとしていて何もうつしていないような瞳を女に向けた。

女はあらあらと笑って、それから子供に目線を映した。

「葉月、あれはどなた?」

「って、お前も知らないのかよ」

「知らぬー」

何でもないかのような家族の団欒。けれどその中に聞き逃せない単語がひとつ。

葉月?

それは、兵衛の母親の名だ。勿論母はかなり若い容貌をしているが年は最早とっくに30を超えている。だが、どうしようもないくらいその子供は葉月に似ていた。他人の空に、というにはおしいくらい。

「んじゃまあ…せっかくだし」

「そうね」

夫婦の視線が、一気にこちらを向いた。

何も言わなくても以心伝心しているのか、女は柔らかく笑ったままだし、男は背中にさしていたのだろう。大きなひしゃくのような物をこちらに向けた。

「水でも運んでもらおうか」

「はぁ……?」

久々に声が出た、というか出さざるを得なかった。

驚いているこちらに構わずに、男は何をそんなに驚いているのか分からないといった風にひしゃくを無理やり渡して、「葉月」を抱えあげて女の手をとって歩き出した。

「驚いてますよ?」

「袖振り合うも他生の縁というのになぁ…」

「あらあら、そんなこと言って、単に怠け者なだけのくせに」

笑顔で意外と、きついことを言う女だ。

だけど男はそれにも笑って、本当に幸せそうに目を細めて笑って、兵衛を振り返って口を開いた。

「そっちに井戸があるから、頼んだぞ…なにせ俺は」

「怠け者なのか」

一瞬動きを止めて、よく分かったなぁと呟いてはぱちぱちと目を瞬かせて、それから意地悪そうに口の端を釣り上げた。

「分かってるなら、急いでくんでついてこい」

「………なんで俺が」

行きずり会っただけに見える他人の為にこうして井戸水を汲んでいるのだろうか…

うーんと首を捻って、それからチラリと振り返る。歩むスピードが変わらない家族は、どう見ても自分を待つ気はない。追いつけると思っているのだろう。

普通なら無理だ。なみなみと注がれた水はかなりの重量になるし、零さないように歩くのは至難の業だから。

ただし自分は普通の人間ではなく、最強の陸奥の名をついだ男だ。

ほとんど走るようなスピードで地面を蹴って、あっという間に追いつくと、葉月だけははやいはやいと無邪気に笑うが、男は何でもないかのようにしていて女と笑っている。

「おい」

「ああ、お疲れさん」

いくら兵衛でも、イラっとするときはある。修羅といえども、人間ですから。

「あのなぁ!」

「陸奥」

「は?」

「陸奥左近…だ。よろしくな」

このタイミングで、自己紹介かよ。

しかも、その名前は。

──何も言わない俺に、左近は沈黙を何と取ったのか。

「お前は?」

「……………兵衛」

姓は、告げられなかった。だけど、隠す気にはあまりなれなかった。だから左近が尋ねてきたら答えてしまっていただろう。

だけど左近は何も言わずに、少し離れたところにある小屋をさして「あれが俺たちの家だ」と言った。

そのまま小屋について、ひしゃくを置いた。置いた今、これから何をすればいいか分からない。

視界の影で葉月が小屋に入って行って、女もそれに準じている。しゃがみこんだまま途方に暮れて動けない兵衛と、左近だけがその場に残っている。

「兵衛」

名を、呼ばれた。

母である葉月以外に呼ばれたのは、久々だった。

けれど同時に、肌が泡立つほどの殺気を感じる。

「不破、か…?」

先程まで自分が考えていたことと同じ言葉を、左近が紡ぐ。

陸奥園明流。一子相伝のその技が、分かたれたのは安土・桃山のころ。

陸奥の技をもってしかし名を変えた、不破と言う男がいた。不破は陸奥とは根本的に異なり、暗殺を得意とした。不破と陸奥は互いに不干渉ながらも背中合わせで、不破は陸奥をたてて仕合を望みはしなかったが陸奥が史上最強というのなら不破との闘いは、いつかは避けられぬものなのかもしれないと語っていたのは、母だ。

だが、自分は陸奥だ。

「──違う」

言っても、信じてはもらえぬだろう。自分が確かに、正式な陸奥で。

その上、恐らく自分は……この時代の人間ではないのだ。

一体何がきっかけなのか全く分からないが、それでもここに居る葉月は、自分の母親の葉月だ。自分に陸奥の技を教え込んだのは葉月であるのに武道を一切やっていない動きをしていたのが気になるが。

(え…)

殺気が、やんだ。

「そうか、分かった」

そんな、自分でも信じられないことを何一つきかずとも、左近は構えていた手をおろしたのだ。

「なんで……」

「だから、言っただろう」

──俺は、怠けものだって。

……何て人だろう。

眉を歪めて、立ち上がった。無条件で人に信じられるということが、こんなに心を動かすとは知らなかった。

「お前、途方に暮れたような目をしてたが」

「…そんな目をしてたつもりはないんだが」

実際、していたのかもしれないが、情けなくて認めたくはなかった。

特に、この男には見られたくなかった。

「…帰る場所はあるのか」

「………あるさ」

「そうか、それなら良いが──うちは今人手が足りない」

「うん?」

ぴくりと肩が震えた。心が疑念に揺れる。

「あんたが居てまだ足りないものがあるのか」

左近ならば、兵衛と同じように楽々と水を運び、魚もとり、一人で十分なほどの働き手のはずだ。

だけど、肩をすくめて小屋を見つめる左近はいけしゃあしゃあと言い切る。

「俺は、あいつについていたいんだよ。一秒でも長く……だから、とても便利そうなお前を帰したくない」

葉月のいい遊びあてにもなりそうだしな。

片目をつぶって、何とも失礼なことを述べる左近に湧き上がったのは…どうしようもない諦念。

この男にはかなわないと、心底思った。

思って、しまった。